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大津地方裁判所彦根支部 昭和38年(ワ)84号 判決 1964年6月25日

主文

被告は原告が別紙目録不動産につき、大津地方法務局八幡出張所昭和三十年二月十八日受付第四八二号をもつてなされている所有権移転請求権保全の仮登記に基く本登記手続をなすことを承諾せよ。

原告が右本登記手続を完了したときは、被告が右不動産につき大阪地方裁判所昭和三五年(ワ)第四九九六号貸金並びに保証債務履行請求事件の執行力ある判決正本に基き申立たる大津地方裁判所彦根支部昭和三八年(ヌ)第一〇号不動産強制執行は之を許さない。

当裁判所が昭和三八年(モ)第六一号事件につき昭和三十八年十二月十一日になしたる強制執行停止決定は之を認可する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めその請求原因として、

被告は訴外江南省三との間に於ける大阪地方裁判所昭和三五年(ワ)第四九九六号貸金並びに保証債務履行請求事件の執行力ある判決正本に基き、大津地方裁判所彦根支部に対し別紙目録物件の強制競売を申立て、同裁判所は昭和三八年九月三日強制競売開始決定をなし、その後競売期日を同年十二月十三日午前十時と指定した。ところが別紙目録物件は元訴外江南省三の所有であつたが左記経緯を経て原告が昭和三十八年八月二十日その所有権を取得し現在は原告の所有物件である。

(一)  訴外江南省三は昭和三十年一月十四日相続により別紙目録物件の所有権(共有持分二分の一)を取得し同年二月十八日その登記を了し、即日訴外株式会社滋賀相互銀行との間に同月十七日に締結した債権極度額金十万円契約期間は予め定めず債権者の都合により解約出来る旨の根抵当権設定契約に基きその登記をなし、右根抵当権の債務を期限に弁済しないときは、代物弁済として右物件の所有権を移転すべき旨の停止条件附代物弁済契約をなし、之に基き所有権移転請求権保全の仮登記を了した。

(二)  原告は昭和三十六年六月九日訴外株式会社滋賀銀行より右根抵当権及びその被担保債権並びに停止条件附代物弁済契約上の地位を訴外江南省三の同意を得て譲受け、同月二十三日その登記を完了した。

(三)  原告は昭和三十六年六月十日訴外江南省三と、右債務について左記要旨の債務弁済契約並びに抵当権変更契約を締結し、同年七月十八日右根抵当権を抵当権に変更する旨の登記を了した。

(イ)  金八万七千五百九十円を昭和三十六年八月二十日に支払う。

(ロ)  利息は日歩五銭とし毎月末日に支払う。

(ハ)  遅延損害金は日歩十銭とする。

(ニ)  利息の支払を一回でも遅延したとき、他より差押を受け又は破産宣告の申立を受けたとき、及び契約条項に違背したときは期限の利益を喪う。

(ホ)  右期限の利益を喪失したときは催告其の他何等の手続を要せず直に抵当権を実行されても異議がない。

(四)  訴外江南省三は右弁済期日たる昭和三十六年八月二十日を経過しても利息は勿論元金の支払をもしなかつたので、右停止条件付代物弁済契約に基き原告が別紙目録物件の所有権(持分二分の一)を取得した。

よつて原告は訴外江南省三に対し右物件の所有権移転登記(前述所有権移転請求権保全の仮登記の本登記)を求めた、けれども同訴外人は之に応じなかつたので、大阪地方裁判所へ右登記及び同物件の明渡請求の訴を提起したところ、同裁判所に於て昭和三十八年十一月二十六日請求を認諾した。以上の通り原告は別紙目録記載の不動産の所有権を取得しその本登記をなす認諾を得たから其の登記をなす準備中であるが不動産登記法第百五条第百四十六条によれば、仮登記後その本登記をするには、登記上利害関係人のある場合は、その承諾書を必要とする旨定められているので、利害関係人に当る被告にその承諾を求めたが之に応じない。よつて原告は右承諾に代わる裁判を求めると共に、之が認容せられそれに基いて右本登記を経由することを条件として、被告より訴外江南省三に対する債務名義に基いて原告所有の物件に対して開始されている右強制執行の排除を求めるため本訴請求に及んだと述べた。

立証(省略)

被告は適式の呼出を受け乍ら本件最初の口頭弁論期日に出頭しなかつたので、その提出に係る答弁書に記載されている事項を陳述したものと看做すと、原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求める、原告主張事実中被告が訴外江南省三との間の判決正本により別紙物件につき強制執行の申立をなし、昭和三十八年九月三日その開始決定あり同年十二月十三日午前十時を競売期日と指定されていること及び訴外江南省三が別紙目録物件を相続しその旨の登記をなし、更に訴外滋賀相互銀行に対し原告主張のような登記を完了していることは之を認めるが、その他は何れも否認する。原告は表面上金融業を本職とし裏面では事件ものの不動産を安く譲渡を受けて高く処分することを業としており、別紙目録不動産にしても訴外江南省三が被告から強制執行を受けることを予期し訴外滋賀相互銀行より残債権金八万七千五百九十円と抵当権及び所有権移転請求権保全の仮登記上の地位を譲り受け、結局其の所有権を取得したように事実を捏造している。因に別紙目録記載の不動産は競売の最低価額金四十八万四千五百円で時価金百五十万円は下らない。従つて右訴外人が僅か金八万七千五百九十円で所有権移転の上明渡しに応じる筈はない。仮りに原告に債権があつたとしても訴外江南省三が時価百五十万円以上の不動産を僅か金八万七千五百九十円で手放す筈がない。又原告としてもかゝる第三者異議の訴訟をしなくても別紙目録記載の物件に対し不動産競売申立をなし充分に配当金を受けることが出来るのである。

なほ原告に別紙目録不動産の所有権があるとしてもその登記を経由せず仮登記だけでは第三者異議の訴は提起出来ない。以上の次第により本訴原告の請求は失当であるから之に応ずることは出来ないというのである。

別紙 目録

第一、滋賀県蒲生郡安土町大字下豊浦字聖焼三千七十八番

一、宅地 百七十四坪

第二、右地上

家屋番号同大字第百四十二番

一、木造瓦葺平家建居宅 一棟

建坪 二十八坪

附属

一、木造瓦葺二階建倉庫 一棟

建坪 四坪

外二階 四坪

右の内江南省三所有に係る二分の一の持分

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